怖い話

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怖い話

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叫び声

私が中学生のころなので今から30年以上前のこと。あまり裕福な家庭ではなかったので、親が勝手に粗大ゴミを家に持ってくることがあった。私立大学の隣接する学生街の近くに住んだいたので、狙い目は卒業生の使わなくなった家財道具が3〜4月の雪解け近いところに放棄されていたもので、10年は使ってないであろうとてもキレイなものばかりだった。それを持ってきては家の古いのと取り替えていた。

そんなある日、私にソファを持ってきたと、ただでさえ狭い部屋に置くことになった。
出入口にも少々干渉しており身体を横にしないと入れない程。ただ、見た目は普通だったし座り心地も悪くなかったのでそのまま使っていた。夜は布団を敷いて寝ているのだが、ソファを置いたことでさらに寝るところは圧迫され殆どソファの隣に寝ている状態。

数日後、真夜中に突然起こされることになる。それは女性の叫び声である。夜中に寝ながらラジオを聴く習慣があった私だが明らかにはっきりと人間の声と分かるもので私の耳元で発しているのが分かるもの。ラジオはタイマーが設定されているため1時間で切れるようになっており、叫び声で起きたときには決まって夜中2時〜3時。タイマーでラジオはとっくに切れている時間帯。
目の前で誰かに叫ばれたときとは違い、耳元で叫ばれたときの特有のこもっているというか耳の中で響く感じがあったので誰が私の隣で叫んでいたのは確か。でも誰もいない。親は1階で寝ている。
もう何がなんだか分からないまま何週間か過ぎる。その声は不定期に聞こえるため本当に不意をつかれてしまい、起きたときには心臓がバクバクしてしばらく放心状態になる。

あるきっかけで叫び声の原因と思われるものを疑うようになる。それは友人が遊びに来たときのこと。ソファの上に座る友人がポツリと

なぁ、焦げビスケ。なんか変な音聞こえね?

私には全然聞こえなかったのだが、なんかキリキリと歯ぎしりみたいのがずっと聞こえると言う。特にソファあたりから。
ただソファを調べても何も出てくるはずもない。
その日友人はどうしても気になるから帰ると言ってすぐ出ていってしまう。
この一件からこのソファが途端に怖くなる。よく考えたら叫び声が聞こえ始めたのもこれが来てからだし、ソファ側の左の耳から叫び声は聞こえるので、どうしても気になってしまい、もう捨てることを決意して親に相談してみることに。
ちゃんとした理由でないと怒られそうだったので、部屋には大きすぎるので捨てたいと簡単ないいわけをつけて言ってみた。
いつもならしつこく理由を掘り下げてくる親は何故か今日に限って素直に了承した。
ま、了承も何も元々親の金で買ったものでもないのだからそんなこと伺う必要もないんだろうけど。
私はすぐにでも捨てたいとお願いするも、あいにく雨が降っていたため翌朝にごみステーションへ置くことにして、今晩はそのままにして寝ることに。

今夜だけの辛抱だと自分に言い聞かせ布団を敷く。いざ寝ようと掛け布団をかぶるとやはり怖くなる。ここはいつものラジオで気を紛らわせようと、枕元のラジカセのタイマーをいつもより長く設定しようと身体を回転させラジカセのタイマーをセットしようと頭まで被った掛け布団を払いのけた瞬間、視界の右側に何やら見える。ちょうどソファの下、薄暗い部屋の中でもはっきりとその気配のようなものが分かった。
今右を見ては駄目だと直感で悟りタイマーをセットする振りをして思いきり布団から飛び出した。2階の階段を半分踏み外しながら音を立てて下りる。親が飛び起きて来るのを見て、しどろもどろで今までの経緯とソファのことを説明する。
それを聞いた親は

おまえは1階で寝ろ。後はやるから。

とだけ言って、私は親の寝てる床の間で寝かせられた。

朝、何事もなかったようにキッチンで親が迎える。
ソファのことを聞くと、親は捨てたとだけ言った。
家の前はごみステーションだったので見てみるとソファはない。
2階の自分の部屋にも、もちろん他の部屋にも。どこにもなかった。
それ以来、叫び声のような怖い思いはしていない。
ソファの下の気配のこと、ソファの行方は分かっていない。
私も深くは聞いていない。
あの夜の親のなんとも言えない神妙な面もちの顔を思い出すと、不思議と聞いてはいけないんだろうなと納得できた。


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